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青森地方裁判所 昭和34年(行)12号 判決 1961年8月31日

原告 長谷川治

被告 木造町長

主文

原告の第一次的請求に係る「原告が木造町教育委員会の職員たる身分を保持することの確認を求める訴」は、これを却下する。

原告のその余の第一次的請求及び第二次的請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、第一次的請求の趣旨として、「被告が昭和三四年六月一九日付をもつて、木造町事務吏員たる原告を免職した処分の無効であることを確認する。原告が現に木造町教育委員会の職員たる身分を保持することを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、第二次的請求の趣旨として、「被告が原告を免職した右処分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、

第一次的請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、昭和三二年九月六日木造町町長事務局長の臨時雇に採用され、税務課職員となり、恒常的な事務に従事し、昭和三三年三月六日右任用期間を昭和三三年九月五日まで更新されたものであるが、右九月五日を経過しても、依然原告に対する任用が継続され、同じく右職員として恒常的事務を担当し来つたのであるから、原告は、当然臨時にあらざる職員の身分を取得したものである。何となれば、地方公務員法第二二条第五項によると、臨時的任用の期間は、六月とし、一回に限り六月を超えない期間、これを更新することができることになつており、若し、これを超えて任用する場合は、当然本採用として任用されたものと解すべきであるからである。しかるに、被告は、この点を無視し、昭和三三年一二月二〇日に至り、原告を木造町事務吏員に本採用したものとして取り扱い、木造町教育委員会に出向を命じ、原告は、同日以降教育委員会所属職員となつたのである。

二、ところが、被告は、昭和三四年六月一九日原告を免職するとの辞令を交付したが、その理由とするところは、原告は、事務吏員採用後、六月の期間を経過せず、条件附採用の期間にあるので、任意に任免できるというのである。

三、しかし、右処分は、次の理由により無効である。

1  原告が教育委員会職員の身分を有するものであることは前記のとおりであるところ、教育委員会所属職員の任免権は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第一九条、第二三条に明らかなように教育委員会に存するのであるから、これを無視して行つた被告の免職処分は、権限を逸脱した無効のものである。

もつとも、原告は、いつたん町長事務部局職員として任命され、教育委員会に出向を命ぜられ、教育委員会所属の職員となつたのであるが、右「出向を命ずる。」とは、町長事務部局職員たる身分を解く行為を意味し、原告は、町長事務部局職員たる身分を解かれ、教育委員会職員となつたのであるから、爾後、原告に対する任命権は、教育委員会にあり、被告に存するものではない。従つて、被告の一方的行為により、出向を解き、原告の身分を教育委員会から町長事務部局に移すことは許されない。

2  原告が、昭和三三年九月六日以後、地方公務員法第二二条第一項の規定する条件附採用期間を経過し、臨時的任用にあらざる職員の身分を取得したものであることは、前記のとおりであるから、原告に対しては、地方公務員法第二七条、第二八条の規定によらなければ、免職できないのであり、これによらない右免職処分は無効である。

仮に、右の点を論外として、原告が昭和三三年九月六日でなく、同年一二月二〇日臨時の職にあらざる職員に採用されたものとしても、原告は、前記のとおり昭和三二年九月六日から臨時雇として恒常的事務に従事し来つたのであるから、右恒常的事務に従事し来つた期間は、前記条件附採用期間に通算すべきである。従つて、原告は、右免職処分当時は、条件附採用の身分にあつたものではなく、正式に採用されていたものであるから、一般職員と同様、地方公務員法第二七条、第二八条の保護を受けるべき関係にあり、これを無視せる被告の右処分は無効である。

3  被告が原告を免職した真の事由は、次の点にある。

昭和三四年四月三〇日執行された木造町町長選挙においては、前町長成田幸男、現町長伊藤藤吉が立候補し、しのぎをけずつて争つたが、伊藤候補一派の者らが一部木造町職員の父兄又はその知友の許に赴き、「若し、お前達が伊藤を支持せず、成田を推すならば、伊藤が当選した場合、お前の子弟は首だぞ。」とおびやかしていた事実があり、原告の父長谷川行も警告を受けていたが、果して、伊藤候補が当選し、その警告どおりの本件処分となつたものである。

しかし、原告は、仮に、前記条件附採用期間中にあるといつても、右期間中誠実勤勉に勤務し来り、なんらの職務上の過失がなかつたばかりか、むしろ普通以上の良好な成績をもつて勤務し来つたものであり、原告としてはもちろん父兄の選挙活動に干与したことがなく、又町職員として選拠活動は全くしなかつたのにかかわらず、被告は、父兄の選挙活動を根にもつて免職処分の如き暴挙に出たものであつて、被告のした右処分は、権利の乱用であつて、無効である。

四、よつて、原告は、被告に対し、右免職処分の無効確認及び原告の身分確認を求めるため本訴請求に及ぶ。

と、このように述べ、

更に、第二次的請求の原因として、「仮に、右免職処分が無効でないとしても、前記右処分に存するかしは、取消の原因となるものであるから、第二次的に、右処分の取消を求める。」と述べ、

被告の主張事実を否認し、「仮に、出向が被告主張のとおり地方自治法第一八〇条の三の「従事させる。」に、あるいはその他のいずれかに該当するとしても、同条によれば、町長は、他部局と協議し、右行為をすべきことが明らかであるから、その解除行為たる出向を解くことも、少くとも右他部局と協議の上、行われるべきである。しかるに、本件の場合においては、他部局たる教育委員会と協議が行われたことはないのであるから、原告は、依然として同委員会の職員たる身分を保有しているのであり、被告の原告に対する免職処分の無効、違法たることに消長はない。」と述べた。

(証拠省略)

被告は、主文同趣旨の判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一項の事実中原告が昭和三二年九月六日木造町町長事務部局臨時雇に採用され、昭和三三年三月六日右任用期間を同年九月五日まで更新されたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、昭和三三年九月五日の経過をもつて臨時雇の身分を失つたが、前木造町長は、その五、六日後原告を新たに臨時雇として採用し、同年一二月二〇日事務吏員に任命し、同日教育委員会に出向を命じたのである。

二、同第二項の事実は認める。

三、同第三項の事実は否認する。被告のした原告に対する免職処分は、なんら無効、違法ではない。

被告が原告を木造町教育委員会に出向を命じたのは、地方自治法第一八〇条の三によるもので、同条の「当該執行機関の事務に従事させる」に該当する(同条の「兼ねさせる」でもなく、又「充てる」でもない)。従つて、原告は、依然として町長事務部局の事務吏員たる身分を有し、被告は、自由に右出向を解く権限を有するものである。

と、述べ、

原告の答弁に対し、更に、次のとおり述べた。

なるほど、地方自治法第一八〇条の三によると、「当該執行機関の事務に従事させる」については、普通地方公共団体の長が当該委員会又は委員と協議すべきことが規定されているが、これを解くについて、協議すべき規定がないので、いわゆる出向を解くについて協議がなくともなんら違法ではない。本件については、協議を経たことはもちろんであるが、協議がないとしても、出向を解かれた原告の後任者の出向については異議がなかつたのであるから、前任者たる原告の出向を解くについても、異議がないものとみなすべきで、協議を経たと同一の効果を認めるべきである。そして、原告が、当時前記のとおり条件附採用の期間にあつたのであるから、被告において、自由裁量により免職することができたことはいうまでもない。

と、述べた。

(証拠省略)

理由

先ず、原告の被告に対する「原告が木造町教育委員会の職員たる身分を保持することの確認を求める訴」について、案ずるに、原告の右訴は、公法上の身分関係の確認を求めるものであつて、行政処分の取消ないしはこれに準ずべき行政処分の無効確認を求めるものではないから、行政庁たる被告は、当事者適格を有せず、原告の右訴は、不適法として却下を免れない。

次に、原告が昭和三二年九月六日木造町町長事務部局の臨時雇を命ぜられ、昭和三三年三月六日右任用期間を同年九月五日まで更新されたことは当事者間に争いがなく、文書の方式及び趣旨により真正に成立したものと認める乙第一号証の四、五、六に、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、右臨時雇を命ぜられると同時に税務課職員として勤務したが、右更新された期間たる昭和三三年九月六日を過ぎても、従前同様勤務を継続したまま、被告からは身分関係について、なんら指示、命令がなかつたので、その数日後、木造町助役に尋ねたところ、同年九月六日付で又も臨時雇に命ずる旨発令があつたこと、そして、その後、同年一二月二〇日原告は、木造町事務吏員に任命され、同日教育委員会に出向を命ぜられたが、昭和三四年六月一九日被告は、原告に対し、右教育委員会出向を解き、地方公務員法第二二条第一項による条件附採用期間中であるとの理由で免職する旨の辞令を交付し、原告を免職処分に付したことを認めることができる。

先ず、原告は、「原告が被告から教育委員会に出向を命ぜられ、従つて、町長事務部局職員たる身分を失い、教育委員会の職員としての身分を保有しているから、被告の原告に対する免職処分は、権限を逸脱した無効のものである。」と主張する。しかし、出向については、地方自治法、地方公務員法には、直接規定するところがなく、被告は、この点について、「出向は地方自治法第一八〇条の三に基いてしたものである。」と主張するので、右第一八〇条の三の規定をみると、同条は、普通地方公共団体の長がその補助職員をもつて、当該普通地方公共団体の執行機関たる委員会の補助職員に融通し得ることについて規定し、同条が、その方式として規定するところは、普通地方公共団体の長がその補助職員を当該普通地方公共団体の執行機関たる委員会の補助職員と「兼ねさせる」方法と、右委員会の補助職員に「充てる」方法と、右委員会の「事務に従事させる」方法とであるが、ここに右「兼ねさせる」とは、当該吏員その他の職員に対して委員会が兼務を命ずる行為を具体的に行うことをいい、「充てる」とは、委員会の補助職員の組織を定める条例規則又は規程等によつて、当該委員会の補助職員には、長の補助職員たる吏員その他の職員をもつて充てる旨の規定をし、長が特定の職員に対し、当該委員会の事務を行うよう職務命令をすれば、当該職員は、当該委員会の事務を補助する職員に充てられたことになり、「事務に従事させる」とは、当該吏員その他の職員に対し、委員会の事務に従事すべき旨の職務命令を発すれば足りるものと解すべきであり、このことは行政実務上においても、一般に認められているところである。そこで、進んで、本件出向が右のいずれか、その他に該当するものであるかどうかについて、案ずるに、成立に争いのない乙第三号証の二、第六号証の一、二、三、第七号証の一、二に、証人成田幸男、加福勝三郎の各証言及び弁論の全識旨を総合すると、木造町においては、町長事務部局の職員が同町の執行機関たる委員会に出向を命ぜられても、依然として右部局の職員たる身分を失わず、右身分のまま当該執行機関の職務に従事することになつていること、又出向を受けた執行機関においては、当該執行機関によつては、改めて、その職員に任命する旨の辞令を交付しているところもあること、更に、又木造町においては、昭和三〇年に行われた町村合併後、右出向の制度が行われるまでは、選挙管理委員会、教育委員会等各種委員会の職員は、町長事務部局の職員が兼務し、兼務の辞令を交付していた先例があり、その後、間もなく行われるようになつた右出向についても、従前の兼務と同趣旨の下に行われて来たこと及び委員会においても右趣旨の下にあらかじめ協議を経たと否とにかかわらず、町長が出向を命じ、又はこれを解くことに異議なくこれを承認し、町長事務部局の職員の融通に応じて来たことを認めるに足り、右認定の木造町における出向についての取扱によれば、職員の融通方式として行われた本件木造町における出向とは兼務を意味し、地方自治法第一八〇条の三の規定する「兼ねさせる」趣旨で行われたものと解するのが相当である。従つて、原告は、教育委員会に出向を命ぜられても、町長事務部局の職員たる身分を有するものであるから、被告には、原告に対する任免権があつたものというべきであり、又委員会が兼務を免ずる手続をとるのを、被告町長が右委員会と協議して、右兼務を免ずる趣旨において、被告町長が出向を解くとする発令形式をとることも違法であると断定することができないから(その妥当か、どうかは別として)、原告の本主張は、これを採用することができない。

原告は、「被告が右出向を解くについて、教育委員会と協議を経ていない。」と主張するが、前掲乙第三号証の二及び証人加福勝三郎の証言を総合すると、教育委員会においては、右出向を解いたことについて、異議なくこれを了承したことが認められる(右認定に反する証人高橋敏文の証言は採用しない。)から、仮に、明示の意思表示による協議がなかつたとしても、協議を経なかつたことのかしは、当時、既に治ゆされたものというべく、右出向を解いたことについて、これを無効、違法たらしめる原因とはならないものと解すべきである。

次に、原告は、「地方公務員法第二二条第五項によると、臨時的任用の期間は六月とし、一回に限り六月を超えない期間、これを更新することができることとなつており、若し、これを超えて任用する場合は、当然本採用として任用されたものと解すべきであるから、原告は、昭和三三年九月五日を経過するとともに、当然臨時にあらざる職員の身分を取得したものと解すべきである。」と主張するが、地方公務員法第二二条について当然原告主張のように解すべき根拠はないから、原告の本主張は採用することができない。けだし、条件附任用は、地方公務員として新たに採用された者について、その職務の執行能力を有するか否か、条件附任用期間において判定しようとする制度であつて、その期間中の職員は正式任用の選択過程にある者であり、同条第一項本文によると、臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用については、すべて条件附のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成積で遂行したときに正式採用になるものとするとの規定があるが、臨時的任用については、右と異なり、ただその任用期間が定められているだけに過ぎないこと、これに反し、臨時的任用は、災害、非常事変等に際し、あるいは臨時の職に関する場合等に短い期間を限つて採用し、正式任用の選択過程にあるものでなく、同条第二、三、四項によると、人事委員会を置く地方公共団体における臨時的任用については、同条第二、三項に違反した場合、人事委員会がこれを取り消すことができる旨規定されていること、又同条第六項によると、臨時的任用は、正式任用に際して、いかなる優先権をも与えるものではない旨規定されていること等によつてみれば、被告の再度の臨時的任用が妥当であるか、ないかは別問題として、同条の法意は、臨時的任用は、あくまでも臨時的任用として職員を採用する趣旨で規定されているものであることが窺われるからである。

原告は、「右の点を論外として、原告が昭和三三年一二月二〇日に至つて始めて臨時の職にあらざる職員に採用されたとしても、昭和三二年九月六日から臨時雇として恒常的事務に従事し来つたのであるから、右恒常的事務に従事し来つた期間は、条件附採用期間に通算すべきである。」と主張するが、これ又当然その主張のように解すべき根拠はないから、原告の本主張は採用することができない。

更に、原告は、「被告が原告を免職したのは、原告の父兄が木造町長選挙に際し、立候補した現町長伊藤藤吉の反対選挙運動をしたことを根にもつたためである。」と主張し、証人長谷川保は、右主張にそうかのような証言をするが、証人長谷川定男の証言と対比して、にわかに採用し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そして、その他の主張、立証を検討しても、被告の原告に対してした本件免職処分が公正を欠くと認めるに足りる証拠はない。

以上により、本件免職処分当時、原告は、まだ条件附採用期間中にあつたのであり、被告の原告に対してした本件免職処分が原告主張の理由により、無効ないし違法であるとは到底認めることができない。

よつて、原告の教育委員会の職員たる身分を保持することの確認を求める訴は、不適法としてこれを却下すべく、原告のその余の請求は、すべて理由がないから、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野村喜芳 福田健次 谷口茂高)

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